初日に稚内を存分に楽しみました。港では奥尻島・利尻島の文字も目にして、後ろ髪を引かれるところもありますが、稚内の街を離れることにします。季節を変えてもう一度訪れたい、そんな素晴らしい街でありました。
本日最初のランナーは、
稚内5:14発 旭川行 普通列車
ツアーに付随していた宿の朝食バイキングの権利、きっと美味しい港町の料理が出るでしょうから非常に惜しいわけですが、それを待っていたら間に合わないのです。やむなく前日に買っておいた総菜パンと共に、静まり返った稚内の街を、駅に向かいます。
5:10 最果ての朝
駅に到着。こんな時間、当然誰一人おりません。街はまだ寝静まっているのです。
と、思いきや!
こんな朝早くから除雪をしている方が!
私のように早朝に稚内を発つ人も、辿り着く人も、こうした方々のおかげで安定した路面を歩くことができるわけです。我々の生活は気づかないところで誰かの頑張りによって支えられていると実感する瞬間でありました。
一晩中降り続いた雪で、足跡はリセット。駅に向かってきた自分の足跡が、まっさらなキャンバスに加えられます。そうしていよいよ駅構内へ
凍える身には悪意しか感じられない自販機に見送られながら
お目あての列車にいざ!
次発の列車より2時間近く早い出発ですが、お目当ての列車は道中で追い抜かれてしまいます。
すでに入線済みの彼が今日の主役。
宗谷本線を完走する数少ない列車。旭川までの259.4㎞を5時間14分かけて走破します。新幹線であれば、東京-博多間を移動できてしまう所要時間です。
この列車は、名寄からは快速列車 なよろ4号に姿を変え、終点旭川まで駆け抜けていきます。ちなみに残念ながら、この旅の後のダイヤ改正で、稚内-名寄間と名寄-旭川間の列車に分断されてしまうことになります。
トイレがあるので、長旅も心配ご無用です。それではいきましょう。
定刻通り発車した列車は、サロベツ原野の暗闇の中を南下しはじめます。車窓は、黒一色
自分の列車が暗闇をあてどなく進んでいるような錯覚に襲われますが、車両は確実に敷かれたレールに従い進んでいきます。そんな状況で、にわかに暗闇からすぅっとなにかが閃くように光が現れると、駅に到着。これの繰り返し。駅を発車すれば再び闇の中。
人の営みと自然の境目が、このように感じられるのは非常に不思議な感覚です。
映画 南極物語では、本駅がロケ地に。私も見たことがありますが、駅のホームが登場したのは、高倉健が南極に連れていく犬の飼い主にあいさつだったか、その後南極に置き去りにしてしまった犬の飼い主に謝りに行ったシーンだったような。幼い頃、祖母の家で見た同作を思い出します。
日本最北の無人駅で2021年3月に廃止されることが決まっていましたが、地元住民やファンの存続運動などがあり、2021年12月時点では地元稚内市が管理することで駅は存続しています。
6:44 糠南 着
列車は着実に南下を続けます。明るくなった頃に到着したのは糠南駅
こちらは駅舎?待合室が有名で
庭先に建っていそうなこやつが駅舎。この中で列車を待てるように、中には椅子だとかポスターが貼られているとの噂。また、駅周辺は牧草地が広がるのみで、秘境駅としても名を馳せているとか。しまわれた箒の気分を味わうことができる貴重な物置駅舎であります。
しかし、この何もない場所で、糠南クリパと称して、毎冬クリスマスパーティを催す人たちがいるらしい。毎年なかなか賑わうようで、いつか参加してみたい
おつかれさまです。
2017年3月に廃止になる予定だったものの、駅が所在する地元自治体 中川町とJRとの間で揉めていた歌内駅。
2021年に入ってからは中川町が年100万円近くの維持を払いJR北海道から管理を請け負っていましたが、ついに2022年3月での廃止を決断しました。こうした波は、自治体の財政難や人口減少を踏まえると今後も加速していくと思われます。
駅舎は、かつて貨物列車に併結されていた車掌車を活用しています。
「貨物の車掌ってどんな仕事していたのだろうか」
と気になって調べてみると、面白い話が。緊急時に必要だったとのことですが基本的には暇だったようですね。
歌内駅と同じく存続がかかっている筬島(おさしま)駅
この駅は新造の通常駅舎・・・かと思いきや、歌内駅のような車掌車駅舎の外装をリニューアルし、使っている模様。車窓のみならず特徴的な様々な駅舎が旅を彩ってくれるのがこの宗谷本線です。
ちなみに存続の危機に瀕したいずれの駅も、1日の平均利用者数が1人以下とのこと。1人以下・・・筬島駅もまた、2021年から地元 音威子府町によって管理されることになっています。
北海道のローカル線が直面する利用者減は、もはやいくところまでいってしまっている感があります。
公共交通は地域の生活に不可欠ですが、かといって株主のことを考えれば、延々と赤字を垂れ流すわけにもいかない民間企業 JRのことを考えると、頭が痛いですねぇ。JRと地元自治体で、膝を突き合わせて、地域の交通の在り方を模索していくしかないのでしょう。あくまで鉄道はその選択肢の一つ。
このように今や存続が危ぶまれる駅たちですが、かつては周辺エリアの木材の積み出し拠点として栄えていたということでした。
この土地を切り開いて線路を敷設した当時の人々の苦労は計り知れません。ヒグマなんかもそこら中にいるでしょう。
そんなレールが日本海側にそそぐ天塩川に寄り添ってくると
7:36 おといねっぷ
稚内を出てから最初の主要駅 音威子府に到着です。稚内から130km近く南下してきました。
その難読さといい語感といい、後述の話などもあって個人的に好きな駅の一つだったり。
良いですねぇ、音威子府
かつて、ここから稚内へは、今乗ってきた日本海側を通る宗谷本線とオホーツク海側を行く天北線を選んで行くことができました。先に敷設されたのは天北線ルートで、札幌から稚内へ向かう急行列車も走っていたのですが、平成元年に惜しくも廃線。当駅はそうしたかつての交通の要衝としての名残を感じることができますし、現在でも貴重な有人駅となっています。
また、本駅は北海道一小さい村にある日本一ウマい駅そばも有名。黒色の麺と昆布だしのきいたつゆが絶品とのこと。朝食にぴったり!・・・と思ったものの、営業は10時から。無念です。日を改めて訪れることにしましょう。
と、2017年当時に綴っていたのですが、2021年2月に店主がお亡くなりになられ、閉店されてしまいました。
ここからはウトウトしており写真を失念。文章でお許しください。列車は再び南下をはじめ、8:43 名寄駅に到着します。稚内から183.2㎞ 約3時間半。名寄駅では17分間停車。
乗っていた普通列車はここから快速運転になるわけですが、それに合わせて同時に乗客も一気に増え、一部区間では車内に立ち客が出るほどになっていきます。名寄駅から小一時間で・・
10:00 塩狩へ
名前だけは耳にしたことがある方もいるかもしれません。この駅の南方には、悲しい歴史を持つ塩狩峠があります。
そんな車両に偶然一人の国鉄職員が乗り合わせていました。彼はデッキにあったハンドブレーキで停車を試みます。しかし、客車は止まりません。加速する客車の行く先には連続カーブ。職員が最後に選んだのは、、、自己犠牲。
彼は自らの身をもって列車を制止させ、乗客の命を守ったのでありました。
事故の詳細は現在もはっきりしていないそうですが、この事故を扱った三浦綾子の小説 塩狩峠では、このように描かれているようです。1人の命でみんなが救われる。その時自分は自己犠牲の選択を取るか。非常に考えさせられます。
三浦綾子氏の記念館が塩狩駅のそばにあります。
長時間移動の疲労を和らげてくれそうな比布駅を過ぎると間もなく
10:28 旭川 着
北海道第二の都市 旭川に到着!
259.4㎞ 5時間14分の旅はこれにて終了。とはいえ5時に始まったのでまだ午前10時半というのがお得感があって嬉しいですね。変わり映えのない雪景色の中を長時間行く旅に不安がありましたが、いざやってみると個性的な駅舎であったり、ストーリーを抱える駅、そしてなにより非日常的な暗黒・白銀の世界を行く行程はあっという間に過ぎていきました。
存続が危ぶまれている宗谷本線
最北の地へ至る貴重な交通手段のため早々廃止されることはないと思いますが、減便・廃駅の流れは強くなるばかり。廃線の足音は着実に聞こえてきています。乗れるときに乗っておくべき路線、実際乗ってみてそのように感じました。夏にまた訪れてみたいものです。
旭川から特急オホーツク3号に乗り継ぎ網走へ。ただ、発車は11:18で約1時間ほどあるので、この間に昼食を済ませす。
つづく
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