大井川鉄道 井川線 | アプト式区間のすすめと秘境駅の魅力

東海・甲信越

先日友人たちと碓氷峠を下り、めがね橋を訪れた。しかし多くの友人が無関心。記念撮影後、早々に駐車場へ向かう途中、私は高鳴る胸を抑えられなかった・・・が、無理くり押し込めたのであった。歴史が詰まるこの碓氷峠、アプト、ロクサン、そして新幹線と歴史の詰まった場所。一度で良いから鉄道で峠越えしてみたかった。

いや、待てよ。

あるじゃないか、疑似体験できる場所がっ!!布団からすっかり離れられない季節になったけども、旅は思い立ったらすぐ行動。というわけで日帰り弾丸で行ってまいりました。

本旅の目的はこう

第一:大井川鐡道を乗り継ぎ乗り継いで、国内唯一のアプト式区間アプトの乗車
第二:秘境駅NO2 尾盛駅で自然に身を委ねてみる
第三:話題のスポット 湖に浮かぶ奥大井湖上駅の訪問
おまけ:あわよくばSL・トーマスを拝む

ではでは行きましょう。※2018年12月撮影

出発は、金谷から

東海道線を乗り継ぎ、静岡県は金谷駅に到着。筆者二度目の訪問ですが、鉄道で訪れるのは初めて。本駅は、東海道線で大井川を渡り、河岸段丘をぐいっと上りきって、まさにトンネルに差し掛からんとす!という立地。このトンネル自体も旧東海道で箱根、鈴鹿の峠と並んで難所とされた小夜の中山を避けるためのものとか。敷設された往時の苦労が偲ばれる。

大井川鐡道は、そんな金谷駅から千頭駅までの本線、そして千頭駅から井川駅までの井川線からなる地方鉄道。

本線は生きた化石の博物館で、大手私鉄各社から買い取った往年の名車とSLを堪能することができ、滔々と流れる大井川の眺めもそんな名車たちを引き立たせる。そして、千頭駅から井川駅までの井川線もまた特異な路線。これはまた後ほどご紹介。なお、金谷駅から井川線方面を訪問するのであれば大井川周遊きっぷがおすすめ。

大井川鉄道 周遊きっぷ

4,400円で二日間乗り放題だ

通常料金で金谷・尾盛間を往復すると、5,460円なので、大井川鉄道全線を往復するだけでも元が取れてしまうお買い得きっぷだ。

金谷駅の窓口で購入可能だが、現金でしか購入できない。近くにATMもないので、現金の持参が必須である。また、販売の窓口が1つしかないので並ぶ場合があり要注意。スケジュールを組むときは時間に余裕が欲しいところである。

ということで、9:03金谷発の普通列車で乗換駅である千頭駅までおよそ1時間半の道程。いざ大井川沿いをまったり行こうと思う。

と思いきや!

思わぬ混雑

バスツアー客が乗り込み、金谷駅から大変な車内となった。

立ちっぱなしか・・・

先が思いやられたが、彼らの多くは隣の新金谷駅で降車。ひと安心。おそらく同駅から発車SLを目的にした方々だったのであろう。新金谷以降は、着席はできたが、

大井川鉄道車内

ハイキング客だろうか

なかなかの乗車率

大井川鉄道 神尾駅

眺めが素晴らしい神尾駅

旧南海電車21000系

旧南海電車21000系

おっ!ズームカー!1958年生まれの大長老である。

大井川鉄道 吊り橋

大井川に架けられた吊り橋

大井川鉄道 

列車は少しずつ山間をかき分けていく

大井川鉄道 茶畑

静岡らしい光景

道中は、通常の鉄道区間である本線の終点千頭駅まで大井川と連れ添うことになるが、右岸から、左岸から、そして橋上からと、眺めも刻々と変化するため飽きることがなく、茶畑なんかも旅情を引き立ててくれます。あぁここは静岡なんだと。

そんな風に揺られ続け、10:14 千頭駅に到着。SLがたむろし、側線も多い広大な構内だ。

ナローゲージが山を分け入る

そしていよいよここからが国内唯一のアプト式区間。これまで乗車してきた本線ホームから少し離れた場所に、遊園地の遊覧列車のようにこじんまりとした井川線のホームがある。

構内には、売店やトイレもあるのでちょっとここで一息。というほど時間もないので、小走りで乗り換えることになった。ここから本旅の目的 井川線へ突入していく

大井川鉄道 井川線

機関車が牽引する井川線

千頭駅 10:19発の下り第2列車に乗り込む。この車両だが、とにかく小さいのが特徴だ。ナローゲージと呼ばれる狭い幅のレールを採用しているためだ。幅は新幹線用のレールのおよそ半分の762㎜。車内は屈んでの移動になる。

そして、車両によって座席の配置が異なり、車両間の移動も駅でしかできない。なので、乗り込むときは、クロスシート車の進行方向右側の座席を真っ先に陣取ることをおすすめする。終点まで大井川と連れ合っていくことができる。

この地図で注目いただきたいのは、井川線の線形。JR線等であれば、山をトンネルで貫き、川を橋で渡って、なるべく直線距離で行けるように線路が敷かれる。

ところが、本路線は等高線を撫でるように、地形に従順に敷かれているのが見て取れる。そして、車両たちはそのうねりくねったレールに必死に食らいつくように、車輪を軋ませながら勾配を登っていく。山間に響くこの音もまた素晴らしく、厳しい地形を全身で体験できるのがこの路線の魅力に感じる。

実際、私が乗車した列車は、道中、倒木で緊急停止してしまうトラブルに見舞われた。
大いにざわつき不穏な空気が車内に漂う・・。しかし、運転士氏は、私たちの不安を尻目に車外へ飛び出し、倒木を線路脇に投げ捨てるのであった笑 この井川線では、倒木なぞ日常茶飯事なのだろう。

唯一のアプト式鉄道

大井川鉄道 井川線 アプトいちしろ

井川線の拠点となるアプトいちしろ駅

千頭から40分ほどでアプトいちしろ駅に到着。
ここから次の長島ダム駅までの区間が、第1目的 国内唯一のアプト式軌道。この駅では、車外に出て補助機関車の付け替え風景であったり、構内のお手洗いで用足しをすることができる。

二本のレールとは別に敷かれたラックレールと車両側にある歯車を噛み合わせて、鉄道を急勾配に順応させるために用いられるのがアプト式だ。この井川線では補助機関車の力も借りながら、90‰の勾配を補助機関車と共に上っていく。90‰は1㎞の区間で30階建てのビル分を乗り越えていくような急勾配である。

鉄道業界でアプト式鉄道といえば、信越本線の横川・軽井沢間で1960年代まで使用されていたのが有名だ。ただ、同区間はその後新線に架け替えられると共に、アプト式を取りやめている。新線の開通によって、旧線で40分かかっていた同区間の所要時間は、約20分へと短縮されたようで、そんな前情報があったため、

アプト式=過去の産業技術

というのが私の認識だった。
土木技術の進展でアプト式に頼らずとも、急勾配をやり過ごすになったのだ、と。しかし、井川線の本区間は意外にも1990年代になってから敷設された区間。アプト式はまだまだ現役で、環境によっては採用されうる技術ということを知れた。

大井川鉄道 井川線 アプトいちしろ ラックレール

真ん中にある歯のついたレールがラックレールだ

見慣れない3本のレール

大井川鉄道 井川線 アプトいちしろ ラックレール

この先に急勾配が待ち構えていることが分かる

レールが蛇のようにうねっている。ここを登っていくのは簡単なことではない。

大井川鉄道 井川線 アプトいちしろ ラックレール

車両後部に補助機関車を連結

連結作業もお手の物で、あっという間に終わってしまうので見学は迅速に!

大井川鉄道 井川線 アプトいちしろ ラックレール

いざ参らん

OK!

ガシャン!という音を残して最後部の補助機関車に押されながら、列車はここから急勾配に挑む。

大井川鉄道 井川線 アプト式 ラックレール

地形お構いなしに高架橋で山登りをしていく

緑色の山肌に赤い車体がよく映える

大井川鉄道 井川線 長島ダム駅

長島ダム

新線敷設のきっかけとなった長島ダムダムの前に架かる橋はしぶき橋と呼ばれ、ダムの放水を身をもって体験できる場所なんだとか。恐ろしい

大井川鉄道 井川線 長島ダム駅 アプト式 ラックレール

山を貫く赤いトロッコ

新線は御覧の通り高規格。川に寄り添うように走っていたこれまでの区間と打って変わって、険しい地形を物ともせず山々を突き抜けていく。壮観だ。

大井川鉄道 井川線 アプト式 ラックレール

90‰の急勾配

人間のすごみを感じた山肌を一直線に伸びる線路。鉄道は自動車よりも勾配が苦手な乗り物にもかかわらず、並行して走る道路よりもこの線路の勾配がキツイことが分かる。

ちなみに、実はこの区間は新線として開業した区間だったりする。旧線は現在のアプトいちしろ駅付近からこの先に接岨峡(せっそきょう)温泉駅までを川沿いに走っていたが、長島ダムの建設に当たって、ダム湖に沈んでしまったのだ。沈むことのなかった一部の区間が、散策コースとして整備されている。

長島ダム駅に到着

勾配の先にある長島ダム駅

大井川鉄道 井川線 機関車つけかえ

長島ダム駅でここまで押し上げてくれた補助機関車を別れを告げる。車両は当初の編成に戻り、引き続き新線をゆく。そして、長島ダム駅からほどなく、11:37 第二の目的 秘境 尾盛駅に到着。

大井川鉄道 井川線 尾盛駅に到着

大井川鉄道の車掌氏は駆け回る

道中お世話になった車掌氏。ドアの開け閉めから、車内放送、観光案内、検札と大忙しである。職員の方々なしに秘境への旅は成り立たない。

つづく

大井川鐡道 尾盛駅 | 駅とはなんのためにあるのか。何もないようで何かある秘境駅
尾盛駅に至るまでの記事はこちら ※2018年12月撮影秘境駅とはどんなもんだ金谷駅から約2時間半。千頭から約1時間分。秘境駅にやって来た。うねるレール、アプト式に湖上の駅などを経てやってきたもので、到達の喜びはひとしおで...

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