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※2018年12月撮影
秘境駅とはどんなもんだ
いぶし銀の俳優のような名前である。
金谷駅から約二時間半。世には誰が作ったのか知らないが秘境駅ランキングなるものがあり、この駅は栄えある第二位に輝いている。というのも、周辺には人の営みがない上に、外界に通じる道が一本もないという徹底ぶり。
つまり、ホームに降りるためだけに存在する駅であり、駅とはなんのために存在するのか、そもそも駅とはなんなのか、なんのために人は駅で降りるのか。。。
駅、お前はなぜ生まれたのか・・と駅という存在と存分に向き合うことができる場所でもある。また、近年では熊や野犬の目撃情報もある自然が人の営みに勝る場所とも言えるかもしれない。と、まぁ大仰に綴ってはみたが、得てして「秘境」で有名な場所は、それを目指してくる私のような物好きがいるわけで、今回も私ともう一人尾盛駅で下車したわけであった。
山中に自分ただ一人だけ
そんな環境に身を置きたかったであろうその方に申し訳ないと思いつつも、それは私も同じなので気にするのはやめることにしよう。
見ての通り「なにもない」のだ。
本駅も元をたどれば建設作業員が使用する寝泊まりのためであったり、ダム建設の見返りのためであったりと、様々な情報もあるが、なぜ設置されたのかは判然としない。しかし、分からない目的のために、この駅がその役割を果たしていたであろう頃の面影は。
ご覧のとおり感じることができる。この構内で食事を作り、寝泊まりし、働いていた人間がいて、そこに生活があったのだ。
その点では「なにかある」駅。ないとあるの境界は、受け取る人によって大きく変わりうると思うのであった。
散らばる生活感。比較的新しそうだが、小屋の廃れ方は凄まじい。
炊事場の跡?
浴場だろうか。数人は入れる大きさ
なんらかの建物の内部だったのだろうか・・
と、踊る胸のままに分け入っていくと、どこからともなく低い呻き声のようなものが聞こえた。ような気がした。。。。。
「そんなはずは・・・」
と言い聞かせる間もなくまた声が。しかも頻度を増してより近づいてきている気がする・・・自分の心理状態ゆえに聞こえてしまうものなのか、はたまた「何か」が近くにいるのか。分からないが万全を期し、急ぎ足でホームへ戻ることにする。
駅に実はもう一つ、こちらは今も活躍している倉庫がある。
待合室ではなく倉庫。倉庫の中には最低限の机といすなんかがある。最近まで中に入ることができなかったが、熊の目撃情報以来、開錠して待合室として利用できるようになったとか。あくまで物を入れる場所である。我々人間は入れていただいている立場なので、大人しく・・
トゥルルルルルルルルル
ギャあアああああああああアアア!
心臓って本当に飛び跳ねるのだ。鉄道員の内線だろうか、スピーカーを通して専門用語が飛び交う。まさか現役の電話だなんて思わなかった・・・そんなこんなしている間に先ほどの列車が終点閑蔵で折り返して、再び尾盛駅に到着。
11:57 尾盛発
乗り込むとともに安堵している自分に気づいた。秘境駅で聞いた何かの呻き声と無人の倉庫に鳴り響くコール音。20分という短い滞在であり、近くにもう一人いたとはいえ、無意識に恐怖を覚えている自分がいた。非常に貴重な秘境経験ができた気がする。
つづく

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