板橋
50万人という都内有数の人口を誇りながら、有数の無名度を誇る東京北部にある区です。そして、その大動脈として機能する東武東上線もまた知る人ぞ知る私鉄路線ではないでしょうか。今回はそんな東上線で池袋から3駅、大山駅と駅前商店街 ハッピーロード大山のご紹介です。
全長560m、都内有数のアーケード付き商店街に再開発と鉄道高架化の波が押し寄せています。その記録と変化の過程を観察すべく、東上線へ乗り込んだのでありました。(2021年3月撮影)
東武東上線 大山駅
散策は大山駅からスタート。駅南口はハッピーロードのアーケード内に設けられており、通常の駅と異なる趣きで出迎えてくれます。ちなみに私事ですが、幼少期を大山で過ごしたこともあり、思い入れのある駅の1つです。
板橋区役所も駅から徒歩10分ほどで、人通りも多く、板橋の政治・商業の中心と言える場所です。
大山駅の開業は1931(昭和6)年。東上線の池袋・川越付近間の開通が1914(大正3)年であるので、比較的後発の駅と言えるでしょう。駅の川越寄りには、
踏切が存在。鉄道と住民の距離がこれほど近い街(車の存在が薄い街)は都内でだいぶ少なくなりました。
手前側のハッピーロードだけでなく、反対側もまた遊座大山という区役所へ向かう500mほどの商店街となっており、駅前の歩行者が非常に多いのも特徴です。
ちなみに私が幼少期に多くの列車を眺めた踏切でもありまして、ひっきりなしに往来する列車に「次はどこ行きの列車かな?」「銀色の車両は新しくてカッコいいなあ」、「急行速い!森林公園って楽しそうな場所だなぁ」などと待ち時間に心躍らせたものでした。かようなブログを綴っているのもこの踏切の仕業かもしれません。やってくれたなぁ!
鉄道が商店街に呑まれている、そんな等身大の街並みを楽しむことができる街が大山でしょう。
とはいえ、危険も隣り合わせの踏切は時代の流れに逆らった存在とも認識されてもいるのでしょう。この踏切は近々撤廃される予定となっています。というのも東京都主体で東上線の大山駅前後1.6kmの区間を2030(令和12)年を目途に高架化する事業が進んでおります。この光景も今後10年ばかりで大きく変わることになるというわけです。では実際に商店街を歩いていきます。
ハッピーロードの設立は1978(昭和53)年。ですが商店街自体は戦前の大山駅開業頃から見られていたようです。さらに遡ると、ハッピーロードや遊座大山はかつての川越街道の道筋で、中山道・板橋宿付近の平尾追分から分岐し、川越へ向かっておりました。大山地域は江戸と川越を結ぶルート上の拠点として、鉄道開通以前から現在に至るまで、人の流れに恵まれた地域だったんですね。
都内の有数の商店街を総称する東京三大銀座。品川区の戸越銀座、江東区の砂町銀座、そして北区の十条銀座を指し、雑誌等でも取り上げられる銀座三兄弟なわけですが、このハッピーロードも彼らに匹敵する商店街といえるでしょう。
こちらはハッピーロード名物のクレープのピエロさん。貼り紙に書かれた呪文のような文字群はすべてクレープメニュー。その数は300を超(!!)大人もわくわくしてしまうではないですか。
創業は1979(昭和54)年ハッピーロードと共に歴史を紡いできた存在で、現在でもメディアにも登場する商店街の顔です。
商店街を分かつ都道420号線(補助第26号線)
そんなハッピーロードに東上線の高架化事業と併せて迫るのが、都道420号 鮫洲大山線拡幅事業です。この事業が完成すると、
ハッピーロードが上図のように東西2つの商店街に分断されることになります。ピエロを目印にアーケードの外に出てみましょう。
私が立っているこの路地が、幅員20mに拡幅されます。現在の倍以上の幅員になるのではないでしょうか。今の状況からは想像がつきませんなぁ。
環状6.5号線とも呼ばれる本道整備の裏で、庶民の台所が失われようとしています。本事業の進捗により交通網の改善に加え、建物密集地域の延焼対策も実現するとのこと。2025(令和7)年完了に向けて進んでいるようですが、現在も店舗が建ち並ぶ様子を見るに予定通りに進捗するのかは怪しいところでしょうか。
この場所がこのように変わってゆきます。
イメージにある道路が計画断面図そのままですね。この踏切は計画前後が対比できる面白い場所です。
踏切の手前の左手には将来駅前バスロータリーも設けられる予定で、大山を起点とした新たな人の動きも期待されます。
ちなみに、ハッピーロードにアーケードが設けられた背景が興味深いのでご紹介。一つは池袋に建設が計画されていたサンシャイン60に対抗するため、そしてもう一つがこの都市計画道路事業を阻止するためです。
後者の目的は叶わなかったわけですが、アーケード設置後に来街者は1.5倍に増えたようで、こうしてハッピーロードが流れゆく時代を渡り歩いてこられたのも、商店街を運営する皆さんの熱意と行動があったからでしょう。
大山町クロスポイント 次の時代へ
最後に大山再開発の勘所、大山町クロスポイントを見ていきましょう。ピエロから西へ進んでいくと、
この両脇の空き地がクロスポイントです。住友不動産さんが事業主体となり、2棟の高層マンション建設が進んでおります。
商店街直結、駅近、環状道路に面するという魅力的な物件となりそうです。とはいえマンション価格相場は”大きな山”を登り続けている状態。2022年上半期首都圏の新築マンション価格は約6,300万円となっており、マンション建設が庶民の街とどのような化学反応を起こすのかは興味深いところです。実際に建設予定地を見ていきましょう。
この空き地の上に何十という暮らしが生まれるのだから不思議なもの。土地はすべての源泉です。
区画が広く、日当たりも良い南側がメインタワーに位置付けられるのでしょうか。
電線はアーケード上に張られているんですねぇ。勉強になります。
歴史ある商店街の一部が失われることは正直寂しいことではあります。私もこのアーケードに包まれて育った身であるので、他人事ではありません。とはいえ、このアーケードもかつて失われた街並みの上に建つものであるでしょう。情緒のみで変化を否定することはできません。
かつて大山には二つの商店街があったそうなのですが、前述のとおりサンシャイン60、そして都市計画道路事業に地域一丸で対抗すべく生まれたのが商店街 ハッピーロード大山なのだそうです。アーケードはそんな”地域統一”の象徴でもあるのでした。
外部環境の変化を地域の熱意と行動で乗り越えてきたハッピーロード。今回の再開発に対する反対の声も耳に入ってきます。
物理的に商店街は分断されることになりますが、大山の街そのものは分断することなく東上線の高架化、都道の開通、そして高層マンション竣工と新たな風を取り入れながら、無二の街を築いていって欲しい。そんなかつての利用者の想いを最後に遺し、今回は筆止めとさせていただきます。
追記 2023年10月下旬
上記の撮影から2年半。再訪の機会を得て大山へ。コロナも収束に向かったこの期間、着実に変化をしておりました。
大山町クロスポイントのツインタワーが見ぬ間に成長しておりました。将来、手前に写る道路(都道420号線)が両タワーの間、そして商店街を貫いていくことになります。
クロスポイントにも向かってみましょう。
サウスタワーの成長を見守れるように、アーケードにぽっかりと穴が開いておりました。
こちらはノースタワー。一帯の再開発と共に24年12月の竣工に向けて工事は順調なようですね。
道路予定地に反対側、国道254号 川越街道 脇へやってきました。
写真中央の赤信号から両タワーの間を経由して、先ほどの踏切までが新たな道路で結ばれることになります。こちらの方がイメージがつきやすいのではないでしょうか。
最後にハッピーロードの出口から。
おしまい
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