ニュー新橋ビル | 人間味溢れる都心の聖域-ヤミ市の面影残す 駅前雑居ビル

関東

サラリーマンの街 新橋

その響きはオフィスビルの並ぶビジネス街を想像させますが、否。その駅前は、アジアの屋台村を彷彿とさせるカオスが待ち受けています。日々、社内規則に従い、取引先や部下の顔色をうかがい、明日を生きる為に自らを抑圧して働く彼らにとって、この混沌の雰囲気が肩の力を緩めさせてくれるのではないでしょうか。今回はそんなサラリーマンの街のシンボル、ニュー新橋ビルにスポットライトを当てます。2023年4月取材

いつからだろう、新しいものに「ニュー」と付けなくなったのは

JR新橋駅前。列車から眺めたことのある方も多いのではないか。

低層部の美しい意匠が、後述する内部の”混沌”を際立たせる。

戦後ヤミ市の流れを汲み、1971年(昭和46年)に完成。区分所有制により独自性のある多様な店舗が各区画で営業しています。そんなカオスがこのビルの味わいです。実際に見ていきましょう。

1階 – 生活の知恵と名店が集う

SL広場側の入口から見ていきましょう。入り口前では大盤将棋少年道場なるイベントが開催中。

少年(心はいつまでも。そういうもんです)の皆さんが楽しまれておりました。毎週土曜 午後に開催され、20年近く続く歴史あるイベントとのこと。楽しげな雰囲気に引き寄せられ、あなたもまたニュー新橋ビルに導かれていくのではないでしょうか。ここから中を探索していきますよ。

1階には、飲食店やドラックストアなどが並びます。その中でも印象的なのはこちら。

愛用するチェーン店の優待券は買っても損はないだろう

金券ショップです。1階フロア内に何件も入居しており、生活を豊かにすることを企む皆さんがが睨みをきかしています。薄利多売と幅広い品ぞろえを鉄則とする金券ショップにとって、人通りの多い駅前かつ賃料が抑えられ(そうな)この場所は商いにうってつけなのでしょう。裏を返せば、金券ショップがあるところは、多種多様な方が集う場所ともいうことができそうです。飲食店も見ていきましょう。

これもジュースになるの?」メニューを眺めるだけでも楽しい

ニュー新橋ビル内、フルーツジュース店の双璧をなす1店、オザワフルーツさん。多様な野菜・果物を取扱い、栄養面から新橋の人たちを支えている。

文明開化の音が鳴り止まぬころからの老舗。ものすごい行列だ

オザワフルーツさんの裏手には、オムライスの名店 むさしやさん。界隈で”旧式”と言われる、ユル・フワでない卵に包まれたオムライスを楽しめるお店。ですがこの人気は味が本物ということでしょう。今回は一部の紹介ですが、ニュー新橋ビルにはかような名物店が多く入居しています。

その他生活必需品も揃う。

地下1階 – 大人たちが憩う

続いて、地下1階を見ていきましょう。1階が昼の街ならば、地下は夜の店 呑み屋街となっています。

そのとおり、味な店が並ぶ

1フロアに50店舗近くが入居する。トイレの案内もどこか懐かしい

大衆居酒屋から中華、アジア系の飲み屋まで様々である

訪れたのが日中ということもあり、シャッターを下ろす店が多いものの、昼飲みを楽しむ声も聞こえてきます。新橋にはウインズもありますので、競馬の開催日は盛り上がるのでしょうか。地階にもう一つテーマがあるとしたらレトロでしょう。

アミューズメントパーク ウイングさん。白色の機械に原色をまとったボタン類が懐かしい

ほら、赤、青、黄色

お隣の喫茶 フジさんは50年前のビル開業時から営む老舗ですが、昨今、時代が再び追いついてきましたね。

一杯ひっかけてから探検するのも面白そうだ

エスカレーターに乗り込み、続いて2階を目指していきます。

2階 – ”マッサージ”にいざなう視線に溢れる

1階からエスカレーターに身を委ねた男性、中年で身軽でどこかよそよそしい。そんな方の行先がこちらの2階、ニュー新橋ビルで最も特徴的なフロアかもしれません。先にお断りしておくと2階の写真は以下の一枚です。というのも、

至る所に”癒しのお店”の看板があり、店先には看板の客引きのお姉さま。
昼の屋内ながら夜の歓楽街の雰囲気を味わえます。カメラを向けるのが憚られたため、その怪しい雰囲気は以下のプロの筆、もしくは皆さんのリアルの目でお楽しみくださいませ。

《写真多数》中国系マッサージ、風俗店、ジューススタンド…多種多様なテナントが密集する“新橋の秘境”を探訪してみた | 文春オンライン
新橋を代表するモニュメントといえば、駅前広場に置かれたSLが有名だが、そのすぐそばにある新橋駅前ビル、ニュー新橋ビルも、街の歴史を語るうえで欠かすことのできないランドマークだ。 ライターの村岡俊也氏…

3階 – 沼のような趣味の世界 人目を気にせずに

お姉さまからの”お誘い”を振り切り、3階にやってきました。人生の楽しみは人それぞれ。仕事に生きがいを感じる人もいれば、グルメを堪能すること、あるいは女性との甘い時間に生きがいを見い出す方もいるでしょう。3階以上のフロアは、その中でも趣味・嗜好に根差したフロアと位置付けられるのではないでしょうか。

吊るし看板が味わい深い

先ほどは打って変わり、心穏やかに散策することができます。趣味を存分に楽しむには栄養をつけなければなりません

エレベーターを上がったところにある肉の万世さん

ニュー新橋ビルの中でも、品と歴史を感じさせる空間ではないでしょうか。

子どものころ特別な日にしかこれなかった。

ニュー新橋ビルビルにはその他数軒のコロナの検査場所がある

すっかり街に馴染んだPCR検査場。ですが、あと数年もすればこうした案内も過去のものとなるのでしょうか。この記事を執筆しているのは23年4月30日ですが、あと1週間後には新型コロナウイルスの感染法上の位置づけがインフルエンザ同等の「5類」に移行されることになります。20年4月の緊急事態宣言から3年、社会は変わりました。良い方向に、きっと。

その他、白髪染めや増毛を支援するお店などもあり、「人目が気になる施設」の入居に適しているということでしょう。

タバコ天国 THE CAFE

時代が変わったといえば、たばこに関してもでしょう。この5年ばかりでだいぶ肩身が狭くなってしまったであろう喫煙者全員に知ってもらいたいお店がこちら、タバコ天国 THE CAFEさん。10分 110円からの利用可能で、全席喫煙可能、フリードリンク、雑誌・マンガ読み放題という。私は非喫煙者ですが、たばこは文化と思っているので、ぜひかような店には頑張ってもらいたいですね。続いてのお店はこちら。

店先に並ぶ誰かのヒロインたち

その名も昭和ブックカフェさん。名前の通り昭和を楽しむことができる。

グループや個人で他にはない時間を楽しみに来る人が多い

4階 – 紳士の嗜みが集う

60~70年代完成のタイルの意匠は改めて評価される日が来るのではと密かに思っている

現在は立入禁止だが、以前は外に出られたという。

空きテナントが目立つ

4階まで来ると人の流れがほとんどありません。よほどの特徴的なお店でないと集客は難しいのでしょうか。その中でも卓上遊戯店が奮闘されています。

東京囲碁会館さん

麻雀 新雀荘さん

食、カネ、趣味を経て、最後にたどり着くのはかような分野なのかもしれません。

交通ギャラリー 東京支店さん

黙々と働くエスカレーター

おまけ 事務所階

商業施設の上には、オフィスと住居(!)が入ります。以下の黒色の建物がオフィス棟になっているのでしょう。これは知りませんでした。

11階の居住区画にやってきました。こちらも事務所用途が多そうな印象です。

オフィス賃料はご覧の具合

解体迫る!…と噂だが

SL広場から

新橋の顔ともいえるニュー新橋ビルですが、2014年(平成26年)に一帯地域を含めた再開発計画が報道されました。JR羽田アクセス線の開通を控え、新橋は海外からの玄関口としての役割が期待されています。それを踏まえた新しいビルとなれば、現在のような古き良きカオスは失われるでしょう。

ビル地下にある管理組合

こうした報道に対しニュー新橋ビル管理組合は、ビル内のお知らせにて報道にあった解体時期については否定しつつ、再開発に向けた動きが確かに進んでいる旨を紹介しています。

2016年(平成28年)刊行のおしらせ。その後、更新される様子はないが…

近いうちではないかもですが、遠からず新橋駅前の眺めは変わり、サラリーマンの街という枕詞も過去のものになるかもしれませんね。

おしまい

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