2020年も早いもので6月。あと1月で1年の折り返しです。何もなければ今頃、来月の五輪に向けて賑わいが最高潮になっていたところでしょう。
そんなこともあってか、この6月には都内の都市開発においても大きな出来事がいくつかありました。今回は、その中でも渋谷駅の埼京線・湘南新宿ラインホームの移設についてご紹介でございます。
絶望の350m
「明日、渋谷のハチ公に1時集合ね!」
「おっけー!(駅に5分前とかに着けばええかな)」
そんなありふれた約束によっていったい何人の利用者が図らずして遅刻する羽目になったでしょうか。。。
当日、彼らが電車を降りて、急いでハチ公へ向かおうにも、待ち構えるのは延々と続く動く歩道。歩けど歩けどハチ公は見えず、やっと山手線の乗り場に着いたと思ったら、ハチ公口はまだ先らしい。いったいなんだっていうんだ・・・
これが渋谷駅350mの絶望です。
かつて、渋谷駅に埼京線ホームはありませんでした。その昔。埼京線は貨物線であったため、お客さんを運ぶということをせず、ホームを必要としなかったためです。代わりに貨物駅と呼ばれる、荷物の受け渡しをするスペースが駅の南方に存在しました。ただ、時代が進むにつれて貨物の需要は減少。それに伴いその貨物線を旅客化することになると、いよいよ渋谷駅にホームを作ることが計画されます。ただ、山手線ホームと横並びに!とはいきません。
というのも、埼京線を山手線と挟み込むように存在していた東急東横線の渋谷駅ホームによって、土地を確保することができなかったのです。結果、苦肉の策として、貨物駅が存在した南側の空き地にホームが設置されることになりました。山手線ホームとは、それは長い長い連絡通路で結ばれます。これが二十数年にも渡る悲劇の始まりだったのです。
その間に数多の悲劇が繰り返されました。。こうして東急東横線の地下化を機に、埼京線のホームの移設計画がぶち上げられました。
およそ10年に渡るSTEP1を経て、ついい去る2020年6月1日、悲願の移設が完了しました。というわけで、今回はその前後の様子をお届けしたいと思います。
移設はまもなく
まずは移設前の様子から。写真は、2020年5月最終週のもの
山手線ホームから眺める渋谷駅桜丘口地区再開発現場。小規模店舗が連なっていた同地区も、今や見る影がありません。
山手線の奥側を走るのが埼京線。写真で山手線と同じ高さにあるレールが、2020年5月30日から6月1日にかけて、同線を運休して行われた大規模工事でジャッキアップされることになりました。
同じ位置から当時現役だった埼京線ホームを望遠
緑色の柵のある場所は、新ホームとなった場所。埼京線自体が1m近くかさ上げされたことが、分かるかと思います。
ちなみにこちらは同位置の2018年10月の様子
これは、かつて存在した山手線と埼京線を結ぶ連絡通路を支えていた柱です。先ほどの2018年当時の写真にも写っておりました。幼少期、普段見ることのない動く歩道に興奮したのは良い思い出であります。
ホームが横並びになったおかげで乗換が便利になりました。ただそれだけでなく、山手線ホームの雰囲気がだいぶ明るくなったのも大きな変化に思えます。かつては、閉鎖的で、暗い、人混み、加えて汚いと、若者の街らしからぬ?いやもしかしたら若者の街だからこそなのかもしれませんが、そんな雰囲気が漂っておりました。
では、移設の準備が進む、埼京線を見に行ってみましょう。
と、おっと!?
力強いメッセージです。フォントがまた良い味出しておりますなぁ。素人感溢れる素朴なポスターですが、だからこそ、このオシャレな渋谷の街に不足しがちな温もりを与えてくれている気がしますなぁ
新設された中央東改札。渋谷ストリームへのアクセスが大変よろしい改札口です。
仮設感に満ちた改札内を進んで階段を下りていきましょう。
移動準備中
こ、ここはどこだ・・・
来慣れたはずの渋谷駅にある見慣れぬ眺め。それでも奥に見える山手線ホームには何度もお世話になっています。現実と非現実が入り混じった夢を見ているような不思議な感覚です。
工事前に踏み入れることができる最北の場所がこちら。
この新設ホームが、いつからか、かつての連絡通路の代わりの役割を果たしているようで、ここから恵比寿方面に向かって歩き、既設の埼京線ホームを目指します。
てくてくてくてく
てくてくてくてく
真ん中に見える扇形の意匠は、かつての東急東横線渋谷地上駅にあった特徴的なもの。
スクラップ&ビルドを経ても、かつての面影を感じさせるデザインは良いですねぇ。積み上げられてきた歴史が大切にされている、そんな感じがします。
てくてくてくてく・・・・
って、やはり遠い笑
1編成は300mで、そのほぼ端から端を歩くわけですからね。ホームに降りって5分近く歩かねばならんという、動く歩道がない分、連絡通路よりも厳しい道のりです。
やっとこさ既設ホームの端っこ、電車に乗り込める場所までやってきました。
写真は恵比寿方面
そしてこちらが同じ場所から新宿方面を眺めた様子。いずれの方面にも15両編成分ずつホームがあるわけですから、この時の埼京線にあったホーム状の構造物の長さは約600m!
新幹線の1編成が400mですからね、とんでもなく長いですよこれ
見守る警備員氏
ここにも手作り感溢れるポスターが
こんな感じの全社統一デザインらしいポスターもありますが、駅ごとで個性的な作品も作ったりしてますよね。噂では、各駅で切符の販売ノルマがあるとかないとか。その達成のために試行錯誤を繰り返しているのでしょうか
自販機のお引越しも秒読みと言った様子
埼京線ホームの最南端にやってきました、この眺めも見納めに。
絶望の案内図
実際この日も、ホーム上を右往左往する若者の姿を発見。
せめてハチ公が中央改札付近にいてくれれば、状況は少しだけマシだったんでしょうけどね
閉鎖が取り沙汰されている新南改札
と新南口
渋谷地区でも、駅近にありながら落ち着いた空間が広がる希少なエリアでありました。個人的にもこの界隈のお店は愛用していただけでに、少しショックであります。
ただ、具体的な閉鎖の時期は、まだ示されておりません。
と、ここまでが、工事前の渋谷駅の様子でした。
いつか見慣れていたこの光景が懐かしくなる。そんな日が来るんでしょうか。
というわけで、いよいよここからは、待望の並列化を果たした工事後の様子をご覧いただければと思います。
嘘のような本当の眺め
本当に並んでいる・・・
まるで新規開業したような、そんな感覚
上下でafter/before
工事を挟んで、およそ1週間後の光景ですが、数年経ったかと思わせられます。
埼京線ホームの並列化が注目される今回の工事。ただ、これで終わりでなく、以下のようにSTEP3からSTEP4へ、山手線ホームの拡幅&島式ホーム化の工事が待っています。
内回り線を東側、外回り線を西側に移設し、ホームを島式ホーム化し、拡幅するんだそう。
現在、山手線ホームは、方向別で分かれておりますが、元は、現在の以下の内回りホームを両線で共用しておりました。なんと!
昭和期に混雑緩和のため、外側に新ホームを建設して以降は現在の形態となったわけですが、ここで数十年の時を経て、昭和の眺めがパワーアップして戻って参ります。
いつの時代も変化に忙しい駅です。
それだけ周囲の環境の変化とそれに伴う利用者数の増加が著しいのでしょう。
新設埼京線ホームに移ってみます。
こちらも上下でafter/before
こちらもまた上下でafter/before
こちらも・・・・笑
そんな風に楽しみながら恵比寿方面に向かって、またてくてくてくてく行きまして
そしてここが、新旧ホームの国境線。しっかり税関の方も(違う)
国境を越え、旧ホームにやってきました。
立場が逆転。通路だった新ホームに人が集まるようになった反面、こちらはすっかり通路と化しておりました。こちらの旧ホームには何度もお世話になった筆者。ちょっとセンチメンタル
恵比寿方面へ通路を行けるところまでやって参りました。そこには柵が。これ以上行くことはできません。
フェンスの上から恵比寿よりを撮影。人影の無くなったホームを列車が駆けてゆきました。ということで、今回はこれにて終了。
東横線の地下化、銀座線の移動、そして埼京線ホームの並列化と、渋谷駅の大きなイベントは、これで一段落した感はありますね。それでも、駅周辺の再開発は残っておりますし、先述の山手線ホームもそうです。
余談
渋谷駅にきて感じたのは、
自分にとって親しんだ光景は、ある時に、いとも簡単に過去のものになっていく。
そしてそれが繰り返されている。
ということです。
私の記憶にある渋谷駅は、まもなく消え、ご覧のように新しい渋谷駅ができあがりつつあります。これから私は、記憶に在る渋谷駅と目の前にある渋谷駅を比べながら、生きていくことになるんでしょう。
幼いながらに大人と触れ合う中で、子どもに比べ、大人は昔を懐かしがることが多い印象を抱いていました。ただそれは、上に述べたような記憶と現在の比較の中で、鮮やかに残る思い出が、懐かしく思えるからなのでしょう。
今後、少しずつ今の渋谷駅に親しみを持った世代が増えていくなかで、私のちょっとした発言から私もまたそんな印象を抱かれるのかもしれません。こうして歴史は繰り返していくんだなぁと感じた今回の探索でありました。
おしまい
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