小栗旬さん、青木崇高さんそして石橋静河さん出演の三井住友カードのこちらのCM。朽ちた鉄塔が建つ荒涼とした斜面が印象的な場所で、3人がお金を持たずに安心できる世界について語り合っています。この場所は果たしてどこなのでしょうか。
木々のない峠でお金を持たない世界を語る
正解は群馬県の毛無峠です。
標高は1,823m。東京から車で4時間、長野県との県境上に位置する関東の最果ての峠です。
ネット界隈でたびたびネタにされてしまうグンマー帝国こと群馬県。そのきっかけとなったのが毛無峠の風景画像です。「遭難多発区域」「危険」「立入禁止」と添えられた「群馬県」の看板は何度見ても愉快です。
では、なぜこのようなことになっているのか。それを知るには少し歴史のお話になってきます。
かつては”フサフサ”だった毛無峠の悲運、それは日本で指折りの硫黄産地であったことでしょう。1929年から1971年まで小串鉱山が操業していたのですが、精錬の過程で鉱山周辺の木材を利用したこと、その上、製錬時に発生するガスによってすっかり生え際が”後退”してしまったんだそう。小串鉱山は閉山となりましたが、当時の坑道から有害な亜硫酸ガスが発生し続けているため、かような注意喚起が今もなお掲示されているわけです。
今回紹介しているのは2020年7月来訪時の様子です。夏の始まりですがCMのように強風が吹き付け肌寒かった記憶が残っています。靄で視界も芳しくなく一人荒涼とした中に佇む感覚は悪くなく、いわゆる”グンマーらしさ”を大満喫です。
CMにも映るこの鉄塔は旧鉱山の索道跡(資材輸送用リフト跡)。峠の麓にある長野県須坂地域と結ばれていて、鉱山関連資材のほか、鉱山周辺に住まいを持っていたおよそ2千名の生活も支えていたものと思われます。
風雪に耐えきれず倒れてしまっている鉄塔も。
現在、石油や石炭、銅などの地下資源を海外からの輸入に頼る日本ではありますが、半世紀前までは国内各地でも採掘がなされ、人々の日常に溶け込んでいたわけですね。ただ今や国内の鉱山は数えるほど。例にもれずこの小串の鉱山街も峠のそばで静かに眠っています。
峠をゆっくりと下っていく筋雲は生き物のように見えます。龍が雨や嵐を起こすと信じていた先人たちと気持ちを重ねられた瞬間でありました。
おしまい
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